ピップ(向かない)シリーズの3部作、完結編の感想です。(未読者に気を使いつつ多少のネタバレを含みます)
第1作、第2作の感想は以下です。
わたしはこの真実から、決して目を背けない。
『自由研究には向かない殺人』から始まった
ミステリ史上最も衝撃的な3部作完結編!
大学入学直前のピップに、不審な出来事がいくつも起きていた。無言電話に匿名のメール。首を切られたハトが敷地内で見つかり、私道にはチョークで首のない棒人間を書かれた。調べた結果、6年前の連続殺人事件との類似点に気づく。犯人は服役中だが無実を訴えていた。ピップのストーカーの行為が、この連続殺人の被害者に起きたことと似ているのはなぜなのか。ミステリ史上最も衝撃的な『自由研究には向かない殺人』三部作の完結編!
まず初めに、絶対にいきなりこの作品を読んではいけません。必ず第1作、第2作を順に読んでから第3作(今回の完結作)を読んで下さい。注意書きとしてはそんなところで、第1作、第2作が面白いと感じた人は必然的に第3作も読んでしまうことでしょう。さて、第1作、第2作は「面白かった!」という始まりで感想を書きやすかったのですが、この第3作は感想が書きにくいです(面白い、面白くないの2択でいえば面白いのですが)。すべてのネタバレ有ならば、気を遣わずに書けますが、話の筋として多少のネタバレを含むのはともかく、読書の面白さを失うほどのネタバレはしたくないので、どこまで書いてしまっていいのか、非常に悩みます。まず一つ言いたいことは、紹介文に「ミステリ史上最も衝撃的」と書かれていますが、個人的にはこの表現は少し適切ではない気がしました。「ミステリとしての衝撃ではなく、ストーリーとしての衝撃」であれば、賛同します。あと、販促のために仕方ないのでしょうけど、読む前からあんまり衝撃とか煽らないで欲しいですね。
考えたところ、もしかしたらエヴァンゲリオンを熱心に見ていた人の感情に近いのかな?と想像しました。あのアニメも、序盤から中盤にかけて、いろいろ衝撃があって盛り上がっていき、キャラへの感情移入も高まって、その熱狂の渦が強くなっていって、そして最後どうなるの・・・で、あのアニメ版の最終回だったり、初代劇場版の展開だったりで、ファンが賛否両論の嵐になったのだと思います。第3作を読んだ感想はそれに近いかもしれません。ただ、誤解ないように断っておくと、もしかしたら第3作は読者の勝手な期待(こうなって欲しい)は裏切っているかもしれないけど、破綻はしていませんし、何かを投げ出してもいません。作者のホリー・ジャクソンが書きたいことを好きに書いた!ということは疑いありません。逆に言えば、好きに書いたからこその賛否両論ではないかと。そんなホリー・ジャクソンは年下ということも驚きました。勝手に、人生経験豊富なイギリスのご婦人が、これまでの作家人生の集大成的に書いてるものかと思いきや、まだまだこれからの新進気鋭な作家がここまで完成度の高い3部作をほぼデビューしてすぐに書くとは・・・今後のホリー・ジャクソンが発表する作品から目が離せなくなりました。
そんなわけで、少し奥歯にものが挟まった言い方や感想になってしまうかもしれませんが、第1作、第2作でも面白かったことを3点あげているので、今回もネタバレに気を使いつつ、3点あげて紹介してみます。
①ピップの心に住む善と悪の葛藤
②読者の心に住む善と悪の葛藤
③物語の結末
①について、ピップがこれまで辿ってきた道のりと感情は第1作、第2作で読者と共有している通りです。第3作では過去2作以上に、ピップの内面に重きを置いていると感じました。読者はすでにご存じの通り、ピップは決して感情のコントロールが上手ではありません。また、探偵として私情を無視して真実を探ることに快感を得るタイプでもありません。1作目の時点ではそういった真実を追求することに憧れを抱いて探偵の真似事的に自由研究を始めたのものの、1作目と2作目で衝撃の真実や納得のいかない現実を知って、ピップの中でそれらの価値はとても低いものになっていることが、第3作でわかります。そして、第3作で、ピップは第1作・第2作を超える善と悪で感情を揺さぶられ、真実をコントロールする当事者になります。ピップにとって第3作の選択は良いや悪いではなく、運命だったのでしょうか。それを感じて推察・考察することが一つ目の面白さですかね。
②について、①のピップが感じて判断して行動したことに対して、読者はどう感じたか?を自分に問うことの面白さです。個人的な感情を抜きにすると、①はフィクションの世界で起きているストーリーとしては面白いと言えます。で、個人的な感情を言います。①でピップが選んだ選択肢は最善ではなかったし、共感はできないというのが個人的な感情です。たぶん、これが3部作ではなくて、単発の作品でピップに思い入れがなかったら、もっと普通に「なるほど、これは驚きの展開で面白い」と思えたのかもしれません。が、いかんせん第1作、第2作でピップに対して相応の思い入れができてしまっているので「何とかならんかったもんかねえ」と思ってしまうのでしょう。作者もそれを承知で、ピップが進んだのは「真実」でも「正義」でもなく、「ピップの感情と信じた道」にしたのだと思いますが。本作を読んで賛否両論の否に該当する人は、おそらくピップの行動・判断に共感できなかった人だと思います。私は面白くないと否定はしませんが、第1部、第2部のピップが良かったので、第3作のピップのすべてには共感できなかったという感じですね(もちろん共感できたこともあります)。
③について、結末の詳細はもちろん書きません。個人的には現代的なオチでもあり、この3部作を占めるには納得のラストと感じました。物語の閉じ方としては、余韻も含みもあって、スッキリとキレイに感じました。できれば、さらにこの数年後とか、数十年後の話を読みたいです。その話の主人公は誰でも構いません。このピップ3部作とのつながりがあれば、それだけで必ず買って読んでしまうと思います。
3部作を読み切って、続きが気になるストーリーテーリング、ミステリのツボを押さえた調査と推理、登場人物達の悲喜こもごもな関係とテンポの良い会話、善と悪に対する感情の揺さぶられ方、そしてピップへの思い入れなど、3部作を通じてこの物語の虜になり、楽しむことできました。全3作は繋がっている話で、第1作から読むことを必須にしていながら、その内容や方向性はある意味で全然方向性が違います。第1作は青春ミステリ、第2作は探偵ピップの成長と挫折、第3作は善と悪のサスペンスというような感じですかね。なので、別々の方向性でも楽しめるし、当然3部作として繋がっている物語としても楽しめます。
このような素晴らしい読書体験を与えてくれたホリー・ジャクソンさん(最後だけさん付け)と、読みやすくて没入できる日本語訳ををしてくれた服部京子さんに感謝します。今後の新たな作品、そして勝手にピップシリーズの続編やスピンオフにも期待してます!もしも、映画化したときは、例のごとく「小説から知ってる古参のファン」的な立場で楽しませていただこうと思います。
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