【2012年上半期】ブクログマイランキング 活字編ベスト10(5位~1位)

2012年上半期活字編の5位~1位です。



10位~6位は別記事に掲載しています。
では、早速5位より紹介します。




第5位:歪笑小説


小説家と出版業界の実状(?)を時にコミカルに、時に毒を交えて、
時に感動的に描いた連作短編集。
(それぞれの物語は繋がっているが、独立した短編としても読める)

特に面白かったのは、
・最終候補
・小説誌
・戦略

小説家、出版業界に対する憧れと現実のギャップが、
「最終候補」では切なく、「小説誌」では皮肉と自虐を込めて、
「戦略」ではユーモアたっぷりに描かれている。

小説家を1度は夢見た人や、出版業界に興味のある人には、
その実状(全て事実かどうかはともかく東野圭吾が
書いてることで説得力がある)が面白くも有り、
本気で目指している人には、ギャップによる虚無を感じるかもしれない。





第4位:聖女の救済


新刊で発売されている本書を書店で目撃した数年前の頃。
帯に惹かれて買おうか迷った挙句、
新刊故に学生にとっては高価な値段と
東野圭吾の「ガリレオシリーズ」を知らなかったので
断念した思い出がある作品。
その頃から「いつか文庫化されたら買おう」と思い、
今日の機会に至った。

フーダニット(犯人は誰か)は、予め読者に半ば明かされていて、
その点に読者を脅かせるような仕掛けや逆転劇はないが、
事件を捜査する草薙刑事と犯人側のヒューマンドラマが
丁寧に描かれているので、犯人が分かっていても退屈はない。
むしろ、分かっていることが物語への感情移入を高めている。
テーマ性から女性にもオススメである。

何よりもハウダニット(どうやって犯行を成し遂げたか)の
真相が面白い。事件を解き明かす探偵役が物理学者であるため、
小難しいトリックが語られることを危惧していたのだが、
そんなことはまるでなく、物理学の知識・教養が全くなくても、
トリックの真相には辿り着ける。
そして、答えはタイトルである「聖女の救済」の意味にリンクし、、
ホワイダニット(なぜ犯行に至ったか)にも繋がっているのが美しい。




5位と4位は、東野圭吾氏の小説を続けてラインナップ。
氏の小説は、基本的にどれも安定して読みやすいし、面白いのですが、
あらかた読んだ(といっても著作が多いので未見の作品も数多くあります)ので、
ほんの少しばかり食傷気味になったのもあって、一時期はあえて距離を置いてました。
なので、この2作はかなり久しぶりに読んだ東野圭吾作品です。
久しぶりに読んでも、やっぱり安定して読みやすく面白かったですね。
ミステリーとか小説に読み慣れてない人が手を出しても安心な保証付きです。




第3位:みなさん、さようなら


ある事情により団地から外に出られなくなった少年が、
ミクロな世界で日々を生き抜く姿を描いた青春小説。
…と書くと、どんより暗いネガティブな物語を想像しがちだが、
物語の語り口調はむしろ明るくポジティブに近い。

関わる人間も起こる出来事も全て団地内に限定されるため、
主人公を取り巻く世界は確実に狭いのだが、
そこでの様々な経験は、広い世界で日々をぼんやり
生きているよりも、よほど濃密である様に感じた。
主人公は「引きこもり」であるが「リア充」でもあるのだ。
(世間一般の「引きこもり」、「リア充」とは性質が異なっているが)

物語の後半、主人公が団地で培ってきた技術を使って、
男としての勝負に挑んでいくシーンは、
前半のともすれば痛々しいとも言える青春時代の失敗で
学んだことが活かされ、主人公の成長と共に読んで爽快であった。
主人公の性格は一貫して変わってないのだが、
時が経ち、団地が寂れると共に円熟味を増していくのである。
主人公の偏屈で淡々としながらも、熱い生き様を感じる物語。

タイトルの「みなさん、さようなら」に繋がるのだが、
物語に出てくる登場人物が何らかの形で団地を去る時、
彼らのその後については、ほとんど何も語られない。
ケータイが普及してない時代背景もあって、
その呆気なさ、顛末のぼやけ方はリアリティに満ちている。
主人公にとっては団地で見聞きした情報が全てであるし、
他の住人にとって団地はただの住まいであるから、
「また会いましょう」ではなく「さようなら」なのだろう。



10位~6位で紹介した2作品に続いて、これも笹原さんの書評で知った本です。
ジャンル的には「青春小説」で良いと思います。
あとがきに書かれていますが、社会的な問題のテーゼがどうとかが主ではなく、
閉鎖された空間での変化・終焉・成長を丁寧に描いた作品だと思います。
全然難しい話ではなく、読みやすいですし、物語にも入り込みやすいです。
主人公と舞台設定に感情移入できるかどうかで、読後の評価は変わると思いますが、
元々が引きこもり気質な人は共感しやすいのではないかと。

2013年には映画化される様で、試しに観てみようかなと思ってます。
邦画を見に行くのは、高校だか大学の時に連れられて見た、
「魁クロマティ高校」と「デスノート」以来になるのですけど…。




第2位:八朔の雪―みをつくし料理帖


時代小説だが、すごく読みやすい。
幼くして両親を亡くした主人公の澪は、
人生に待ち受ける困難に対して、
料理人見習いとしての類稀なる鋭敏な味覚、
不幸に負けない健気な立ち振る舞い、
そして周りの助力を感じながら成長してゆく。

第1話にあたる「狐のご祝儀」を読み終える頃には、
物語に没入し、登場人物に感情移入し、屈託なく感動できる。
「雲外蒼天」とは、まさにこの話のことだろう。
それぞれの話は、美しいオチの文章によって
独立させてもすっきりと読み終えれるのだが、
物語間の繋がりや伏線も濃厚に描かれているため、
読み進める程に続きを読みたくなる。

何よりの魅力は、作中に出てくる料理が、
巧みな描写表現とシチュエーションの妙によって、
ちょっと想像するだけでも美味しそうに感じる。
料理と人情は時代を選ばずストレートに伝わる所以だろう。
巻末付録には作中に出てくる料理を
現代風にアレンジして作れるレシピも付いてるので、
試せる方はぜひ。



これまた笹原さんの書評で紹介されて知った本です。
恥ずかしながら告白しますと、読んでる最中に本気でウルっときました
小説を読んで(小説に限らずですが)、本気で泣きそうになる程の感情移入って、
あんまり記憶にないのですが、この小説には見事にやられました。

自分の内にある「縁側でお茶飲んでるおじいちゃんの様な精神」の面で、
どストライクでしたね。老後はこんな小説を読みながら安らかに永眠したいです(笑)
レビュー内でも描いてますが、古き時代の話に、料理と人情は反則的にマッチしていて、
物語としても伏線はあるし、物語の繋がりも深く、極めて質が高いと思います。
いかにも、ご年配の方が読むような体裁に見えると思いますが、
いざ読んでみれば、今時の若者にだって面白く感じとれる人はいるはずです。
今後シリーズを買って読んでいきますので、たぶん下半期のランクインも確実と思われます。




第1位:連続殺人鬼カエル男



個人的に警察官が主人公の物語はそれほど好きではない。
感情移入ができにくかったり、内部の上限関係や警察の闇的な話にはあまり興味がないからだ。
本書も、警察官がしがらみを抱えながら事件の謎を巡って奔走するし、
警察内部的な話にも深く足を踏み入れているのだが、そんなレッテルはどうでもよくなるぐらい、
事件の怪奇性と逆転の連鎖に唸らされた。
社会性のあるテーマを扱っている警察小説としても読めるが、間違いなく本格ミステリーである。
また、事件のおぞましさや、犯人の描写、そしてエピローグからは、
サスペンスの雰囲気も強く感じるので、三重の方向性で楽しめる物語になっている。

タイトルと表紙絵はどこか間の抜けた感じだが、
文体は終始硬く、決して読みやすいタイプの小説ではない。
しかし、読んでいる最中は先の展開が気になり、一気読みしてしまう没入感があった。



1位と2位は、どちらも差がないほど良かったのですが、
漫画編では、2位を非日常で過激な作品、1位を日常で穏やかな作品にしたので、
活字編はその逆の形にしました。この作品は「カエル男」を名乗る人物が
巻き起こす連続殺人から、日常に潜む狂気とダークサイドな心理を扱った物語です。

そんなわけで、万人にオススメとまでは言いませんが、
ミステリー・サスペンス、あるいは警察・社会派の小説が好きな方ならば、
ぜひぜひ読んでみて下さい
。どれか一つジャンルの琴線が触れれば惹き込まれ、
少し読んで文体にも慣れさえすれば、グイグイ読み進めると思います。
それぐらい引き込まれる物語であり、どのジャンルの小説としても、
ぬかりなく見事に描かれています。ミステリーとしてだけ面白かったのならば、
1位にはしてませんが、サスペンス描写も見事だし、レビューにも書いてる様に、
警察を主眼とした物語としては、意外なほど感情移入できたのも良かったです。
何よりも、どんでん返しの構成が見事で、逆転好きとしても唸らされた作品です。





漫画編のカオス度に比べれば、活字編はまだ分析できる方向性かなと。
ジャンルとしてはミステリーが好きなので一番読んでると思いきや、
並べてみると、7位、4位、1位以外はミステリーじゃないラインナップに。
フレッド・ヴァルガスの「青チョークの男」とか、米澤穂信の「儚い羊たちの祝宴」
などの作品は紹介したかったのですが、またの機会があれば。

活字編の大まかな基準(評価ポイント)としては、
「読みやすいかどうか」「感情移入できるかどうか」「話が面白いかどうか」を重視してます。
判断基準は自分なので、個人差はあると思いますが、
ベスト3はそれを大きく満たしてます。(1位は「読みやすさ」はあまりないですけど、
それを凌駕する没入感があったので一気に読めました)

それではまた2012年の終わり、下半期編でお逢いしましょう。(たぶん)