独断と偏見で4タイプに分けて探る。
最初に断っておくが、言うまでもなく私は総合格闘技の実戦経験はない。
野球やサッカーはもちろんのこと、格闘技でもボクシングであれば、
ある程度、経験のある人を探すのも難しくはないだろう。
しかし、「総合格闘技」の実戦的経験者となると、これは本当に限られる。
プロとして実際に試合を行うためリングに上がった選手を除けば、
趣味の範囲でかじった程度の総合格闘技経験者は希少だと思われる。
なぜ、こんなことを前提に書くかと言うと、
なんであれ、実際に経験のある人の論理や話には敵わないという、
コンプレックスが多少私にあるため、総合格闘技のその部分での特異性を、
先に少し理解して頂きたかったのである。
よって、これから書く事は、あくまで観戦して考えた範疇での見識である。
今回書きたいことは、総合格闘技で有効である「型」というか、
総合格闘技の型として認められているかは判断できないし基準がないため、
言い換えれば、戦術とかタイプとも言えるかもしれない。
とにかく総合格闘技で活躍できる可能性を多く秘めていると分析した4つに書き記す。
Ⅰ.寝技ベースのオールラウンダー
総合格闘技での安定感、化ける可能性を考えると、
最も適していて、最強に近くなりやすいのは、このタイプではないかと思う。
その筆頭を挙げれば、エメリヤーエンコ・ヒョードルを置いて他ならないだろう。
ヒョードルは元々サンボをベースにした、寝技系選手であることはそれなりに有名である。
だが、あのパウンドや破壊力のあるパンチを見ると、
とても寝技系選手であるとは思えない。そこに強さの秘密があると見る。
もっと言えば、柔道の経験を生かした組み付いた時の凌ぎ方や投げ方も生きている。
ヒョードルの場合、素質と経験が見事に融合している特殊な例であるため、
「型」云々だけでは計れない部分もあるが、このタイプの例は他にもいる。
例えば、ギルバート・メレンデスも元々は柔術の選手らしい。
ヒョードルは腕十字などを見れば、すぐに寝技の技術も伺えるが、
はっきり言って、メレンデスは情報さえなければ、寝技出身とはまるで想像ができない。
相手を殴り倒すしか考えて無さそうなファイトスタイルであるのに、
その裏には、元々柔術のバックボーンがあったという事実。
柔術の経験があるからこそ、あれだけ打撃も思い切り出せるとも読み取れるだろうか。
またJZカルバンも、ブラジルのルタリーブレ出身であり、
実は寝技の技術も十分にあることが調べていく上で分かった。
私はカルバンの試合自体はそれ程見ていない(慌てて調べた程度)ので、
最初は、強力な打撃があるというイメージだけだった。
だが、試合内容などを詳しく読み取ると、それはヒョードルを彷彿とさせる内容もあり、
彼の強さの秘密も納得できるものがあった。
このように、元々寝技出身、ベースの選手が、天性もしくは鍛錬によって強力な打撃を
身につけたとき、間違いなく変貌を遂げ、怪物化する可能性を秘めているのである。
どちらかと言えば打撃の上手さではなく、「当たればKOできる打撃」であることも
求められているかもしれない。総合では技術よりもナチュラルパワーの方が効果的である。
化ける瞬間に立ち会うには、寝技出身と思っていた選手が、
打撃でKO勝利などを収めた時には、その選手に今後注目しても面白い気がする。
Ⅱ.寝技・関節職人
上記の寝技ベースのオールラウンダーと違う点は、
徹底的にグラウンドに固執する、もしくはほとんどが一本狙いという点である。
寝技がベースなだけではなく、最大の武器と称せるレベルにあるのが条件とする。
このタイプで今現在すぐに思いつくのは、やはり青木真也だろう。
前回のプギョン戦では、惜しくも一本を決められなかったが、
誰からでも一本を取ってしまうのでは?とPRIDE初期のノゲイラ並の幻想があった。
そのノゲイラもこのタイプに属するが、今では打撃も上手くなり、
相手によってはグラウンドに固執しない分、オールラウンダーの印象もある。
今成正和や菊田早苗は、確実にこのタイプであると言えるだろう。
他にアブダビコンバット系統の選手はこのタイプになる可能性が高い。
このタイプの強さは、結局の所どれぐらい極めて一本を取れる力があるかに尽きる。
プラスして、寝技に引き込む力も必要になるだろう。
グラウンドに全く持ち込めなければ、その時点で八方塞だからだ。
打撃の攻撃は主にパンチとキックだが、寝技の種類は比較にならないほどあるので、
寝技に持ち込む力と、きっちり一本を取れる力があるのならば、
総合格闘技はパンチやキックを一切出さなくても勝つ事ができる。
まずは誰でも極めてしまうのではないかという幻想を抱かせることが、
このタイプの選手が進む最強への道の一歩ではないかと思う。
Ⅲ.ストライカー
総合格闘技とK-1の最大の違いは寝技の可否なわけで、
ストライカーであるならば、総合格闘技よりもK-1の方が向いているのではないか?と
思われる部分もあるが、純粋にそういうわけでもないと思う。
パンチとキックしか来ないと分かっている中での打撃戦と、
タックルや組み付いてグラウンドに引き込むかもしれない中での打撃戦とでは、
打撃の質や意味は大きく異なるだろうと予測できる。
寝技もできるが、立ち技に固執する選手もいる中で、
元々は立ち技しかできなかったのに、総合格闘技で成功を収めた例と言えば、
もちろんミルコしか居ない。総合格闘技の生態系を破壊したとも言われるほど、
ミルコのストライカーとしての戦い方は、当時の総合格闘技で異端であった。
どれだけスタンドで強くとも、とにかくグラウンドに持って行けば秒殺できるというのが、
ミルコが参戦する前の、K-1や立ち技ファイターの仕留め方の定説と言えただろう。
ところが、ミルコはグラウンドに引きずり込まれなかった点に成功の鍵があった。
相手がタックルを仕掛けてこようが、組み付いて倒しにこようが、
足腰の強さで弾き返し、絶対にグラウンドに付き合わないスタイルを取った。
初めて総合格闘技で一本で敗れたノゲイラ戦以降は、
寝技の技術獲得にも余念がなかったが、それでもミルコは倒されず、
グラウンドで戦うことを極力避け、スタンドで仕留めるスタイルに固執した。
そして、打撃も手数が決して多いわけではないが、
左ハイを中心に、出せば一瞬で試合が終わる切れ味で試合を終わらせる。
この異端なスタイルが他の選手にもできるかは難しく、
レコなどは失敗例だし、ハントはミルコとはまた違うタイプである。
総合格闘技のストライカーの代表選手は、未来永劫ミルコを最初に想像することだろう。
Ⅳ.タックル&パウンダー
総合格闘技において、最も普遍的であり、最も有効であるタイプかもしれない。
レスリング出身者などに、このタイプは多いだろう。
寝技・関節職人との違いは、グラウンドで上の状態であることが基本とし、
一本だけに拘らず、パウンドを多く織り交ぜる点とする。
極端な話、グラウンド状態になって、お互いが全く攻撃を仕掛けないのであれば、
勝敗は長い時間グラウンドで上になっていた者を勝ちにするしかない。
それは極端にしても、判定に置いてグラウンドで上になることは、
優劣をつけやすい要素の一つであるし、
グラウンドで上になるのは総合格闘技で攻める上でのセオリーである。
しかし、総合格闘技発展前は、この攻め方が大いに有効であったが、
今では、下から極める技術を持っている選手も多くいるし、
何より、上になって押さえ込んでいるだけでは観客も満足しない。
よって、このタイプは、膠着を誘発しやすいという問題点はある。
上になると安全であるが故に消極的になるのは、特に悪い例と言える。
その中でも、このタイプに属して内容と結果を出しているのは、
石田光洋のようなタックルの精度と、気持ちの入ったパウンドを見せるタイプか、
パウロ・フィリオのように絶対的な勝ちパターンとして確立しているタイプだろう。
(フィリオは寝技・関節職人に属している部分もあるが、
彼がグラウンドで上になっている状態は実に様になっているので、
こちらの方がタイプ的には相応しいと思える)
今でも勝ちへの有効な戦法であることには変わりないが、
観客を納得させるには、彼らのようなプラスαが必要である。
そこにオリジナリティが見出せない選手は、例え強かったとしても、
上の3タイプよりも映えない可能性は高い。
(オリジナリティがあったとしても、地味な印象を抱く場合もある)
10年以上前、総合格闘技というものは、新しいスポーツなのか、
喧嘩なのか、プロレスなのかさえ分からない、存在自体が不明確なものだったそうだが、
今となっては、総合格闘技用のジムもあれば、総合格闘技用のトレーニングもある。
しかし、まだ総合格闘技の世界も技術も強さも完全なる確立、解明はされていない。
10年後も総合格闘技の世界があるとすれば、その時の最強の型は何であろうか。
疑問と興味は尽きない。
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この記事へのコメント
アルバトロス赤木
格闘技に限らずこのような型は必ず
サイクルするものです
・PRIDE初期のマーク・ケアやコールマン時代のⅣ
・それらを極め続けて台頭してきたノゲイラがⅡ
・10年続くかと思ったノゲイラを倒したⅠのヒョードル
まぁ、サイクルを考えると次はストライカーかなと。
ただ、打撃がどんなに強くても巧くてもヒョードルには勝てない気がしますね
全体的にトップレベルでありつつ打撃の面で超一流という
のが勝てそうなイメージでしょうか
名前を出すとやはりハントやミルコ辺りかなと
もしくはどこにも属さない新しい『型』かと
個人的にはそっちが見てみたいですね
正統派空手で倒すとかカポエラで倒すとか
中国拳法の寸剄でKOとか見たこと無い関節で極めるとか
3mの巨人が出てくるとかジャイアントスイングで決めるとか
…すみません妄想が過ぎました、自重します
月の騎士
小さい体で相手を極めてしまうグレイシー柔術から然り、
コマンドサンボという幻想めいたロシアの秘術然りと、
現れては前時代の有効な型を淘汰して台頭していく…。
と言って、最強の型を一つには決められないし、
型だけでは、時代を長く築けるものではないかもしれませんが。
ヒョードルがKOか一本で負けるのは想像できませんが、
判定でなら、この前のチェ・ホンマンのように上に乗っかって、
押さえ込み続ければ可能性が0ではないでしょうね。
まあ、これまで体格差以外で、そうさせないのがヒョードルですけど。
寝技の技術を覚えた、今のシュルトはなどはちょっと怖いです。
腰は強くないので、寝かせれば問題ないかもですが。
新しい型の妄想は素晴らしいじゃないですか!
3mの巨人なんていたら、ヒップアタックでKOできますよw
ソクジュの例もあるし、アフリカ辺りにはとんでもない素材が
眠っていそうな気がします。
あまり新しいものに拘りすぎて、かつてのK-1
モンスター路線みたいになっても困りますけど、
ロマンは持ち続けたいですね。